家系格差とか言う前に地域格差のほうがヤバいって

生涯所得を数千万円変える“本当の”情報格差/若者よ書を求め街へ出よ? - デマこいてんじゃねえ!

まったくデマこいてんじゃねえ!ってのはこっちのセリフだよ!

そこで私は知り合いの大学生や、***社の社員や◆◆省の役人に、それぞれの家系について聞いてみた。いずれも将来、上位数パーセントぐらいの所得水準につくであろう人々だ。妬ましくてたまらない。

そもそも「国立K大卒」の「絵に描いたようなリア充」やら「***社の社員や◆◆省の役人」やらが周りにうじゃうじゃ出てくる時点で、「妬ましくてたまらない」というのが嘘くせぇ。書いてる自分だってそれと大差ないレベルなんじゃないかと邪推。妬ましくてたまらない。


それはさておき。上記エントリの趣旨は、戦前から知識階級あるいはテクノクラートであった家系に育つことは、読書する家庭環境が生まれながらにして身についているということであり、それが「生涯所得を数千万円変える“本当の”情報格差」だってわけだ。


それじゃあ、祖父が戦前の郵便局長で、流れ流れて辺境の地方都市で18歳まで育った俺が、偏見まみれの経験談を書いてみようじゃないか。


というわけで、父の本棚を小学校の頃眺め見た私は、そこに「ワニブックス」とか「ゴマ書房」とかのどうでもいいハウツー本と、軽い文庫と分かり易すぎる新書しかないことを知りました。まともに全巻揃っている小説は、司馬遼太郎吉川英治。おかしいな、祖父は知識階級だったのに。そこで祖父の家に行きました。本が全然ない。そんな本棚を眺めつつ、家系が全くあてにならないことを知った私ですが、それでも父は本が好きで、週末に買い物に出かけると、母が生活物資を調達している間、市内随一かつ唯一の書店に午前中入り浸ります。その市内随一かつ唯一の書店においてある本は…



ワニブックス」とか「ゴマ書房」とかのどうでもいいハウツー、赤川次郎ばっかりの角川文庫、一番知的そうなのが講談社新書ばっかりの本屋でありました。あとは雑誌と漫画。岩波新書?それ何?文春文庫とか新潮文庫がすごく知的に見えました。単行本はほとんど軽いミステリー。町にそんな本屋しかなければ、父や祖父がそれなりに本好きであっても、本棚の構成がそうなってしまうのはやむをえない話。



日本全国のどんな場所に赴任しても、彼らの知識階級としての立場は変わらないのですが、買える本が違うのです。さすがに私の育ったところはAK-47ぶら下げた小学生もいなければ、ラクダと放浪する15歳もいませんでしたが、でも読書習慣がある子供でも大人でも、私のいた町で買えるのは、赤川次郎の角川文庫が関の山。



そんなことを書くと、いまじゃ「いんたあねっと」が普及しているから「あまぞん」とかで欲しい本が買えるじゃないかWeb2.0は進化論グローバル・ブレインとか書く人が出てくるのですが、そんなん、むかしから書店で「この本欲しい」って注文したら取り寄せで買えましたってば*1。問題は、「この本欲しい」と思いつくことができるかどうかであり、都会の新宿紀伊国屋とかであればめくるめく満載の本棚の背表紙を見て直感する「この本欲しい」を、田舎だといちいち探して調べて検索しないと出てこないというところにあるわけです。なんせ、田舎の本屋は(以下略



最初から、田舎にいたら、読書に親しむ環境にいても、読書習慣あるいは知的な欲求に相応しい本にめぐり合えない可能性が高いのです。これこそが、本当の情報格差です。家系の情報格差なんて、学校教育がきっちり補正してくれるでしょ。実際、私が「デマこいてんじゃねえ!」の上記エントリで挙げられている本に触れたのは、学校図書館でした。田舎で、体育館だけはむやみに大きい、明治時代にできた、小さな小学校の片隅に設置されていた図書館の、誰も読まないような本棚の奥にあったジュールベルヌやファーブル昆虫記や日本の歴史やナポレオンの伝記を、司書さんに教えてもらって読んだのでした。でも、小学生向けの本はあくまでその範囲であって、そこから先は、やはり本屋さんに行くしかないのです。公共図書館はお客さま志向強いし地方議員の趣味を反映して流行作家の本を集めるのに一生懸命だしね。



今では「ぎょうせいかいかく」が熱心に勧められているそうで、そのような司書さんはアウトソーシングされているようです。私は、そんな流れが地方の書籍貧困状況をさらに加速するのではないかと恐れますが、それはともかく、意欲があっても、あるいは家庭環境が読書志向であっても、それに応える地域のインフラが貧弱であれば、元エントリの作者曰くの、生涯所得を数千万、マイナスのほうに変える環境が結局は形成されるのであって、やはり家系より地域格差のほうが読書においては深刻だよなぁ、と田舎に育った私は思うのでした。



上京した大学受験の帰りに渋谷の大盛堂書店に立ち寄って、あまりにも出来が悪かった国語と世界史の論述答案を思い出しながら、ああこんなに素晴らしい本を日常的に読める東京の高校生に勝てというのはひどい話だ、と涙にくれた少年が、オッサンになって思うことを書いてみました。


(ちなみに私が学校図書館で読んだ本。小学校3〜5年生くらい向け?)

ファーブル昆虫記 1  ふしぎなスカラベ (集英社文庫)

ファーブル昆虫記 1 ふしぎなスカラベ (集英社文庫)

海底二万里 (上) (岩波少年文庫(572))

海底二万里 (上) (岩波少年文庫(572))

ドリトル先生航海記 (岩波少年文庫 (022))

ドリトル先生航海記 (岩波少年文庫 (022))

そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

はてしない物語 (エンデの傑作ファンタジー)

はてしない物語 (エンデの傑作ファンタジー)

*1:もちろん、私が育った時期よりは今のほうが恐らく情報格差は小さくなれる可能性があるんだろうとは思います。ただ、そこまで「いんたあねっと」にはまる人は、たぶん本をよむよりよっぽど面白い2chSNSにハマってしまうんだろうと邪推。