僕がまだ若くて会社を担う将来のホープと目されていた頃の想い出

表題は自分でそう思っていただけなので、うっかり信じてもらえると結構恥ずかしかったりする。
この記事を読んで思い出した話です。


就職して、初任ポストが渉外広報、2つ目が人事で3つ目のポジションが官庁への出向だったんですけどね。


人事で、うちの会社の働かない社員の働かないありさまを目の当たりにして憮然としていた中で、上司に呼ばれて「君もこんな仕事ばっかりでうんざりしただろ。次は官庁への出向だからね。」と言われ、これで僕もコースに乗った*1、と大喜びで応諾して出向したら……


そこはうちの会社以上にモチベーションが低い集団のるつぼでした(笑)


よくいわゆる、キャリアの人だけがモチベーションが高くて、ノンキャリアの人はそうじゃないとか、そういう典型的な姿じゃないんですね。キャリアもダメキャリアはちっとも働かなくって偉そうにしてるし、ノンキャリアの人も、すごく意識も能力も高い人もいればそうじゃないのもいて、ただ全体としては、モチベーションが非常に低い集団でした。


若気の至りで、「なんだよ、官庁っつったって大したもんじゃないな」と思ったのはかろうじて口にしませんでしたが、よく考えれば、当社よりもさらに大人数を抱えて、全構成員がモチベーション高く能力高くやってられるわけはないんです。もしそうならあんな安月給じゃ組織として成立しません。むしろ、気づくべきであったのは、あれだけの大人数と、それに必然的に伴う構成員に資質的・意欲的に大きな差がある中で、それなりに全員に居場所があって、それなりに全員を働かせる仕組みのほうでした。能力がなく、意欲もない人の処遇に問題がある組織ではありましたが、能力がなく意欲もない人を、かろうじて使命感と忠誠心で動機付けて「組織で価値を出したいが能力がついてこないグループ」に持って行って、能力がないなりにできる仕事を配分し、組織として動かすその組織的ノウハウは、今思えば中々侮るべからざるものがありました。


官庁に限らず、大きい組織の力の源泉の無視できない部分は、「能力も高く、組織へのコミットメントも高い」グループの人たちの層の厚さや質の高さにあるわけでは必ずしもありません。極端な話、日本を代表する大企業でも、役員になっている人を見たら「なんでこんな人たちばっかりでこの大企業が成立し得るんだろう?」と首をひねるケースすらあると聞きます。日本の大きな組織は、しばしば、「能力は低いけど、組織へのコミットメントが高い」人たちの、限られた能力を動員することにより、その強さを維持し高めているケースがあるようです。その仕組みこそが、その組織の強さです。


しかし、どのような組織でも、能力が低い人の限られた能力を動員する仕組みが最初から備わっていることは稀だと思います。組織がベンチャーから大きくなる中で、どこかのタイミングで壁にぶつかり、そして能力が低い人の限られた能力を組み合わせて、動員する仕組みを作ったのだと思われます。全ての社員が、「能力も高く、組織へのコミットメントも高い」ようになるという幻想をどこかであきらめて、「能力も低く、組織へのコミットメントも低い」タイプ以外の人を全動員する仕組みを自ら構築したのです。


その仕組みは、多くの日本企業において、これまでは成長のカギともいえる秘密でした。バブル崩壊後、もはや欧米は真似するべき手本にならないとの主張がはびこる中、「能力もあって組織へのコミットメントも高い」人材の独創性こそが成長へのブレークスルーを導くのだ!だからそこに足りない人は成果主義を名目に削ってしまえ、なんて気楽な主張がまかり通った時期もありますが、むしろ、組織がある一定規模以上に育ったら、「能力もあって組織へのコミットメントも高い」人じゃない人も当然に組織の中に含まれてきて、むしろそれをどう最大限活用してきたか、という日本的組織の知恵が、何か忘却されているような気がしてなりません。つか、もし本当に有能で意識高い人ばかり集めたければ、成果主義(笑)みたいなぬるい処遇格差じゃ足りないってば。もっと高い給料を用意しないとね。外資系企業みたいな。


なお私は、官庁に出向して、国会官庁対応の渉外をやって、仕事がばかばかしくなって、意欲が落ちて、そのうち仕事能力も落ちて窓際に追いやられていって、大企業に安住するコバンザメ社員に成り果ててしまいました。まあ、多少精巧な仕組みを作ったってそういう社員は現れるんですよ、ぜったい。


(参照)
大企業に就職した「将来有望な若者」が本当にしなければならないこと - 常夏島日記
官庁とレガシー系大企業が守ろうとしてきたもの - 常夏島日記


プロ公務員を育てる人事戦略―職員採用・人事異動・職員研修・人事評価

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*1:監督官庁が強い業態なので、官庁への出向はエリートコースなのです。実際、私以外の官庁出向者はほぼ例外なくコースに乗ってます。